本書は、平成27年司法試験における採点実感等に関する意見(以下では、単に「採点実感」と表記します。)の民法について、各項目、段落ごとに、ポイントとなる事項を説明したものです。
「司法試験平成27年出題趣旨の読み方(民法)」では、本問で考査委員が想定していたであろう「正解」について、詳細に検討しました。本書では、そのうちのどの程度を答案に書けば、合格できるのか。優秀、良好、一応の水準、不良という各区分に該当する答案とは、どのようなものだったのか。採点実感で指摘されている内容は、具体的にはどのような意味なのか。そして、それは真に受けてよいものなのか、無視すべきものなのか。そのような指摘を受けないようにするためには、普段の学習で、どのような点に気を付ければよいのか。そういったことについて、できる限り具体的な論述例を示しながら、詳細に説明しました。
各項目の概要は、以下のとおりです。
「1 出題の趣旨等」では、今回の採点実感が、文字数にするとかなりの量ではあるが、その多くが出題趣旨の引写しであることを指摘しました。
「2 採点方針」では、採点実感の記述や、これまでに明らかになっているデータから、実際の採点方法がどのようになっているのか、筆者の仮説も含め、具体的に説明しました。
「3 採点実感」では、「優秀」、「良好」、「一応の水準」、「不良」の各区分と、実際の得点との対応関係や、各年の合格点との対応関係、これまでの再現答案等からわかっている論文試験における合格の十分条件とその具体的な意味等について、説明しました。
「(1) 設問1について」の「ア 設問1の全体的な採点実感」では、過剰に法科大学院教育を評価するような不自然な記述について、それが政治的意図によるものであることを、国会の議事録を示しながら説明しました。また、問題文の読み間違いを犯しやすい書き方、問題文の読み間違いが生じにくい書き方とはどのようなものか、本問は考査委員まで赤信号を渡ったという特殊な場合であり、「考査委員のレベルに合わせて敢えて誤りを書く。」というテクニックは、現時点ではまだ必要とはいえないこと、付合の書き方についての論述例、請求額まで解答しなければならない場合の過去の出題からみる傾向、Dの反論の実戦的な解答水準等について、説明しました。
「イ 答案の例」では、「優秀」、「良好」、「一応の水準」、「不良」の各区分に該当する答案の例について、優秀に該当するために必要なものとして列挙されている事項、付合の判断基準を明示するか否か、Cの過失認定に当たり問題文を引用したか否か、さらに過失の規範を示すとどうなるか、即時取得について186条1項や188条の説明を欠くとどの程度の評価になるか、担保権的構成に立って理不尽な減点を受けた可能性、いきなり即時取得から書く答案や所有権の帰趨に全く触れない答案の例等について、できる限り具体的な論述例を示しながら、説明しました。
「(2) 設問2について」の「ア 設問2の全体的な採点実感」では、「物権法の基本的ルール」のような前提的法律関係は、常に書くべきなのか、本筋と異なる構成を採ると、さらに説得的な説明が要求されること、上位を狙う場合の要件事実の学習のレベル、5W1Hを明示することの重要性、5W1Hを明示しない書き方のさらなる弊害、趣旨に遡るが要件・規範との関係が示されない答案の論述例、要件・規範を明示する論述例、最低限の規範の明示にとどめる論述例、牽連性の意義を明らかにして目的物の引渡請求権者と被担保債権の債務者の同一性を下位規範とする場合の論述例、上位の論述例を書き切るためには筆力が必要であること、法律効果の発生を認める場合には、常に答案上で全ての要件を検討する必要があるのか、問題文の読み方が甘いというだけで致命的減点を受ける場合等について、適宜論述例を交えながら説明しました。
「イ 答案の例」では、「優秀」、「良好」、「一応の水準」、「不良」の各区分に該当する答案の例について、優秀に該当するために必要なものとして列挙されている事項、要件事実の意味・理由付けを欠く場合の水準、留置権につき要件・規範を明示しない答案の水準、全ての要件を検討せずに留置権を認めた答案の水準、Fの所有権取得について触れていない答案の例、目的物を動産とした場合の水準、「Gの主張の根拠について明確な考察をしていない」答案の例、「Gの主張の根拠」と「Gの主張・立証すべき事実」の配点の大小、要件事実の学習の優先順位、入り口の法律構成の重要性等について、できる限り具体的な論述例を示しながら、説明しました。
「(3) 設問3について」の「ア 設問3の全体的な採点実感」では、基本知識の重要性と、短答と論文の学習順序、監督義務が問われた場合の当時と今後の要求水準の差、規範は覚えておく必要があること、文字を書く速さと答案構成の時間の関係、キーワードを答案に示すことの重要性、規範の明示と事実の摘示は重要だが、理由付けは重要でない理由等について、説明しました。
「イ 答案の例」では、「優秀」、「良好」、「一応の水準」、「不良」の各区分に該当する答案の例について、優秀に該当するために必要なものとして列挙されている事項、「責任能力に関する従来の判例を踏まえて」書いた答案とはどのようなものか、条文上の根拠を明示して監督義務者該当性を論じる答案とはどのようなものか、「Cの監督義務違反とLの権利侵害との間に相当因果関係が認められることを本問の事実関係に即して検討」する答案とはどのようなものか、「被害者側の過失法理の趣旨が求償の連鎖を避けるところにあること等を指摘し,そうした趣旨を踏まえた検討をしている答案」とはどのようなものか、理由付けが合格レベルには必要でないこと、いわゆる予備校論証では理由付けをしたことにならない可能性、「KとLの関係について具体的な説明をしないまま,身分上・生活関係上の一体性等に相当するものが認められることを当然の前提として論述する」答案とはどのようなものか、「責任能力に言及しているものの,その意味の説明がされていなかったり,説明が必ずしも正確でなかったりする」答案とはどのようなものか、「民法709条に基づく責任に言及しているものの,民法第714条との関係についての説明(が)されていなかったり,説明が必ずしも正確でなかったりする」答案とはどのようなものか、「被害者側の過失法理について言及しているものの,判断基準の説明が不完全ないし不十分である」答案とはどのようなものか、「本問のどのような事実がKの過失を基礎付けるかについて必ずしも明確な説明をしていない」答案とはどのようなものか、丁寧に事実の評価を付した答案とはどのようなものか、「Cの監督義務違反とLの権利侵害との間の相当因果関係の有無について考察を欠く」答案とはどのようなものか、「被害者側の過失という言葉を用い,Kの過失がL側の過失として考慮されることを述べているものの,被害者側の過失として判断される基準について論及していない」答案とはどのようなものか、「特に説明もなく責任能力と事理弁識能力を同視する」答案とはどのようなものか、被害者側の過失の論点を落とした場合の水準等について、できる限り具体的な論述例を示しながら、説明しました。
「(4) 全体を通じ補足的に指摘しておくべき事項」では、要件事実の事実記載例と論文式試験の答案との差異、要件事実的思考の有用性と注意点、要件事実を直接問う趣旨か否かを判断する方法と過去問演習の重要性、文字を書く速さの重要性、どの程度字を汚く書くべきか、字を速く書くためのメリハリ付けに関するテクニック等について、説明しました。
「4 法科大学院における学習において望まれる事項」では、論文に合格するために必要な能力、それを身に付けるために必要な学習法、「こうした能力は,教科書的な知識を暗記して,ケースを用いた問題演習を機械的に繰り返せば,おのずと身に付くようなものではない。」は嘘であること、「法律効果を起点として制度や法規範の相互関係を理解することが,法律構成を適切に行い,適用されるべき法規範を見つけ出すための前提として必要になる」とする記述が不適切であること、論文試験の答案構成が基本的に要件の入れ子構造によって構成されること、第3段落の記載がほぼ無意味であること等について、説明しました。
本書が、採点実感を読み解く上で少しでも助けになれば幸いです。
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